【論文ななめ読み】vol.2

■出典
『地方公務員の職務意欲
―「組織外活動」とワークエンゲイジメントの関係性に着目して―』
(神奈川県庁・慶応義塾大学SMD研究所研究員 宮田裕介/自治体学Vol.33-1 ,2019.11)
地方公務員の職務意欲 (jst.go.jp)

1 問題関心、研究目的

近年、加速化する人口減少や高齢化により、地域では様々な課題が生じている。解決への方向性として官民連携や技術革新等が重視されているが、地域の課題解決に向けて尽力する地方公務員の職務意欲の維持・向上も重要な要素と考えられる。

他方、政府は働き方改革の一環として、スキルアップやイノベーション創出等の観点から、副業・兼業の普及促進を支援している。また、近年、民間企業の領域において、所属組織を超えて地域貢献活動や異業種勉強会等に参加することで、知識の習得やネットワークの形成を行う「越境活動(学習)」が活発化している現象が見られる。そして、このような流れは公務員の世界にも浸透してきている。

このような組織外における活動は地方公務員の職務意欲にどのような影響を与えているのだろうか。本研究ではこのような問題関心に基づき、地方公務員の職務意欲に影響を与える要因・メカニズムを明らかにすることを目的とする。

2 先行研究、仮説

(1)先行研究レビュー

ア Public Service Motivation(パブリックサービスモチベーション/「PSM」)
PSM は民間企業における従業員のやりがいを明らかにしたワーク・モチベーション理論を、公務員を対象に発展させた研究であり、公務員の有する利他性が中核的概念となっている。

イ Work Engagement(ワーク・エンゲイジメント/「WE」)
WE は「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、就業中の高い水準のエネルギーや心理的な回復力を意味する「活力」、仕事への強い関与、仕事の有意味感や誇りを意味する「熱意」、仕事への集中と没頭を意味する「没頭」によって特徴づけられる。

ウ 越境活動(学習)
藤澤・香川 [2015] によれば、ビジネス・ソーシャル領域における越境活動の経験が、自己や所属組織を相対化して見ることのできる視野を養い、「ジョブ・クラフティング」と呼ばれる仕事の境界変更(役割変革)を促進し、最終的に仕事の有意味感を高めることが示されている。

(2)仮説
地方公務員の職務意欲は、「仕事の資源」と「個人資源」のほか、「組織外活動」からも影響を受ける。

3 考察

〇4つの潜在変数間の関係性について
仮説どおり「仕事の資源」と「組織外活動」は「個人資源」に対してプラスに影響していたが、「仕事の資源」から「個人資源」へのパス係数の方が大きかった。
〇3つの潜在変数と「WE」との関係性について
「個人資源」が「WE」に対して与える影響が最も大きく、その次が「組織外活動」となり、「仕事の資源」は有意ではないという結果が示された。
〇3 つの潜在変数と各観測変数との関係性について
・「仕事の資源」因子については、「人事評価」へのパス係数が最も大きかった。
・「個人資源」因子については「レジリエンス」(ストレスに対して上手に対処できている)へのパスが最も大きかった。
・「組織外活動」因子については「外部活動」へのパス係数が最も大きい結果となった。

4 結論

地方公務員のWE(ワーク・エンゲイジメント)、すなわち職務意欲は、「仕事の資源」及び「個人資源」のほか、「組織外活動」からも影響を受けるという傾向が見られた。このことは、組織が「仕事の資源」の整備を通して「個人資源」の充実を促すとともに、外部活動やネットワーク活動等の「組織外活動」を支援することにより、職員の WE を向上させるという方向性を裏付ける一つの根拠になり得るものと考えられる。