「公民共創」に想うこと

弊機構名にも使っている「公民共創」という言葉。
この言葉に拘りたかった理由がいくつかあります。

そもそも、似たような言葉である「官民連携」や「公民連携/協働」等と一体何が違うのか?というのは少なからぬ皆さまが疑問を持たれる点でしょう。
これには諸説あるようですが、結論としてはどれが正解・適正ということはないようです。
とは言え、両者が全く同じかと言えば、それはまたそうでもないのです。

その点について、個人的にとても参考になった記載が、『公民共創の教科書』(河村昌美・中川悦宏著/事業構想大学院大学出版部)にあるので引用させて頂きます。

横浜市の『共創推進の指針~共創による新たな公共づくりに向けて』(2009)の一文に
「これまでの公民連携では、行政が自らの知識・経験の範囲内で最適と考える事業スキームを構築し、詳細な条件設定を予め行ったうえで民間事業者を募集するケースが多い状況です。」としたうえで、
従来の行政主導の公民連携事業から一歩前進し、民間のより主体的な参画や発意を求め、行政と民間が双方向のコミュニケーションを通じて、それぞれの知識やノウハウ、その他保有している経営資源を最適な形で組み合わせることにより、優れたサービスを効率的かつ持続的に提供できるよう、異なる価値の積極的相互作用を通じて新たな価値を創出し、行政と民間で「公」を共に創っていくことが市民にとって有効であると考えられます。」
という説明がされています。

また同書では独自に、「共創」の定義を下記のように著しています。

企業や各種法人、NPO、市民活動・地域活動組織、大学などの教育・研究機関などの多様な民間主体と行政などの公的主体が、相互の対話を通じて連携をし、それぞれが持つアイデアやノウハウ、資源、ネットワークなどを結集することで、社会や地域の課題解決に資する新たな価値を共に創出すること。」

前職で約15年間、パブリック事業に携わってきた私としては、この言葉の定義以上に、
ー行政と民間で公共を「共」に「創」るー
ー相互の対話を通じて連携をしー
ー社会や地域の課題解決に資する新たな価値を共に創出するー

まさに「従来型の行政主導型の公民連携から一歩踏み出し、民間と行政が、事業の早い段階から対等な対話をし、事業を構想していくことこそが公民連携の本質である」といった考え方そのものに、心を動かされるのです。

そしてもう一つ、「公民共創」について想うことがあります。
それは、
ーそれぞれが持つアイデアやノウハウ、資源、ネットワークなどを結集するー
という点です。
これは「公民連携」「公民共創」あるいは類似の言葉にしても、全てに共通している要素だと思いますが、問題はこの「結集」の後にあるのではないかと思うのです。

現在、公民連携に関する相談・提案の総合窓口機能として、様々な名称の「公民連携デスク」が各地の自治体に設置されているが、実現したいくつかの事例を見ると、少なからず全国規模の大手企業と地方自治体の連携も見られます。
地元の公と民の連携だけでは、多様な地域課題の解決に必ずしも十分ではなく、全国規模の大手企業が有するより幅の広い「アイデアやノウハウ、資源、ネットワークなどの結集」に期待する現状があるのかもしれません。

しかし、持続可能な地域課題の解決には、その解決に資する地域のリソース、特に人材の育成・確保が重要でしょう。
公民連携がその時々の地域課題を事業として解決に導いた後、次なる地域課題に当たるために常に新たな大手企業との連携を前提とするのであれば、そこにはやや違和感を感じるのです。
本質的な課題は、事業を通じて公民含めた地域の人材が育ち、地域としての持続的な課題解決力の向上にあるのではないでしょうか。

そんなことを考えていた最中、2022年9月の日経新聞の記事に「サントリー社員、自治体へ出向 ESG事業の視点学ぶ」という見出しの記事を見つけました。
記事によると「民間で得られない公益的な視点やノウハウの獲得につなげる。異なる環境での挑戦で中高年のキャリアを活性化する狙いもある。」とのこと。
同社は「やってみなはれ」「利益三分主義」という企業理念のもと、人を通しての社会貢献ならびに「企業の枠を超えたオープンなキャリアパス構築」の支援を目指し、2022年度は10名の社員が全国の地方自治体に出向しており、さらに拡大を目指しているそうです。

また、ある大手商社の人事担当者からは「商社は人材が財産。これまでは人材を通じて世界の国づくりに貢献してきたが、これからは日本の地域づくりに貢献したい」という話をお聞きしました。

こうした企業からの人材流動を促し、一時的な「アイデアやノウハウ、資源、ネットワークなどの結集」に終始せず、公民連携事業を通じた地域人材の育成、またそれを実現する人材としての連携こそが重要なのではないかと思うのです。
その先に、共に成長した地域の「公」と「民」の人材による新たな「共創」のドラマが生まれることを期待しつつ、またそうした「公民共創」の機会を一つでも多く創造するお手伝いをしていきたいと思います。